西の天才 新島雄一郎
「通る理由を探して、通さないと行けないんだ。」
新島雄一郎(35)
「昔からあいつは強いと思ってんだよ」
誰かが結果を残した時、ここぞとばかりに古参アピールをするのはどの業界でもあることだ。
もしあなたが古参アピールと思われたくないのであれば、今のうちから彼の名前を覚えておくことをお勧めする。
最高位戦関西C3リーグ所属。
僕が思うに、彼ほど麻雀を"知的対人ゲーム"として捉えている人はいない。
目の前の手牌だけで打つなら赤子にも出来る。
4人の思惑が交錯するからこそ、麻雀は思考の要素に溢れている。
「通っていないから降りるんじゃないんだよ。通る理由がないから降りるんだよ」
今日はそんな彼の物語....
2018年10月8日、世間は3連休最終日。
麻雀なぞしていなければ、今頃何をしていただろう?
家族を連れて旅行にでも出かけていただろうか?
明日の仕事へ向けて家でゆっくりTVでも見ていただろうか?
そんなことを考えながら対局会場へと足を運ぶ。
今日はリーグ戦第4節、終盤だ。
昇級よりは降級が近い。
しかしやることは変わらない。
「自分にとって最高に得な選択を追求し続ける」
これだけだ。
一回戦
今日の相手はこうだ。
C3リーグは合同リーグであるため、D1/D2の選手と混合で戦う。
下家の野村とは同じリーグ、何かあれば彼には不利な選択をしたい。
東1局
北家 ドラ:
開始早々、3巡目で聴牌
一呼吸置いて会場の静寂を打ち破る
「リーチ」
発声とはこうあるべきである。
そんな明瞭で快活な発声だった。
数巡後、聴牌で追いついた水島からを討ち取り2600の上がり。
東3局3本場
南家 ドラ: 供託2本
4巡目、新島の切ったに北家の入川からポンの声がかかる。
が、染まっている様子はない。
おおよそ供託でも拾いに来たのだろう。
次巡、打東、入川からポンの声がかかる。
打点は不明だが、手を崩すほどでもない。
8巡目に聴牌。
現状リーチのみだが、一手変わりでドラか三色同順。
新島は少考の後、リーチに踏み切る。
マンズの上の場況がほんのり良い上に、上がれば2900点のおまけがついてくる。
この選択がピシャリとハマり、入川からを討ち取る。
1300は2200+供託2本の収入。
東4局
東家 ドラ:
上がって迎えた親番でも8巡目に一向聴。
言わずもがな、ドラのを切れば最も広い一向聴に受けられる。
しかし、競技の定番は打。
タンヤオが確定する上に、ツモで更にグレードの高い一向聴になる。
ここで新島は少考。
恐らく考えてることは筆者と同じであろう。
の場況があまりにも良すぎるのだ。
場に1枚見えているとはいえ残りの3枚はまるっと山に残っていそう。
ドラを切るのではないか、と思ったが選択は打。
次巡、を引き入れると、打ダマ。
ドラが鳴かれないことを確認して、次巡カンで立直に踏み込んだ。
正直、らしくないと思った。
一向聴でを切って
で即リーチをするのが新島だと思っていた。
数巡後、野村から追っかけ立直を受ける。
その野村の一発目のツモは。
誰が見ても分かる、上がり逃しだ。
それ見た事か。僕なら上がってるね。
そう思った次巡、堂々とをツモって2000オールにしてみせた。
この局を新島はこう語る。
「の場況は良かった。分かる。でもも同じくらい俺はいいと思ってたんだよ。」
こう結果を出されてはぐうの音も出ない。
2000と2000オール、この4000点差に筆者と新島の格の差を感じた。
南4局
東家 ドラ:
前局に、インスタントな2000/4000をあがりオーラスの親番を迎えた新島。
新島 46500
野村 33800
入川 34200
水島 5500
誰に満貫をツモられてもまくられないセーフティゾーン。
新島としては
①さらに加点し、大きいトップを目指す
②2着争いをしている野村の着順を上げさせないこと(入川を2着にすること)
がこの局の目標だろう。
同一リーグである野村との着順差は倍の価値がある。
配牌が悪い事を確認すると、から切り出し配牌降りの姿勢。
しかし、そのに反応したのが下家の野村。
でチーして上がりに向かう。
新島にすべきことは明白である。
「お前にだけは死んでも牌は降ろさん」
すると数巡後、対面の入川がをポンして同じく上がりに向かう。
新島にすべきことは明白である。
「あなたの上がりをサポートいたします」
タンヤオ気味の仕掛けをしている野村のは鳴かれず、役牌バックorトイトイ気味の仕掛けをしている入川に対して鳴かれそうな牌を河に並べる。
そうして、新島の思惑通り入川が2600を上がりこの半荘を自身はトップ、野村3着で終える。
+46.5
二回戦
東2局 1本場
東家 ドラ:
東1局と東2局0本場で12000と9600を軽く上がった新島。
好調に気が緩んだか、微妙な選択を見せる。
4巡目
打を選択。
が場に1枚見えており、を引いた
の一向聴があまり嬉しくない。
ツモの2種類の両面変化を残す打がベターな選択ではないか。
新島は「との安全度も比較した」と語ったが、親で4巡目のこの形なら、自分の和了にMAXに受けて欲しかった。
新島は筆者とは異なり、一向聴で完全余剰牌を持つことを嫌う傾向にある。
無論、それがいい方向に傾くこともあるが今回は違った。
次巡、ツモ。
あまりに結果論だが、筆者は
の一向聴となっているだけに痒さを感じた。
次巡、を引き入れリーチに踏み込むが、その痒さをつくように野村が追っかけ立直。
という教科書に書いてあるリーチにを掴み、これが御用。
野村に8000の放銃となった。
「結果、もあがれてないでしょ?形式上の上がり逃しをしていないなら別にいい。俺は打が間違いだと思ってないし」
形式上の上がり逃しというワードだけは、新島の麻雀で唯一理解できていない部分である。
東4局
3巡目の聴牌。
ソウズは場に1枚も切られていないので場況などない。
量産型デジタルとしては音速で「リーチ」をかけているところであろう。
しかし、新島は考えた。
野村の河が
と、ソウズこそ切られていないものの派手な切り出し。
そこに目を付けたかを切って「リーチ」
6巡目、しっかりとをツモ。最速で1000/2000を上がった。
「野村がを複数枚持っているかもしれないからね」
なるほど、という僕の思考を遮って新島は続けた
「それと俺は赤アリで勝ち越してる。ということは赤アリと同じくに受ける方がいいよね」
なるほど、真面目に彼の話を聞こうなどと考えた僕が悪かった。
南1局
南家 ドラ:北
今局は新島の進行を他家視点でご覧いただきたい。
点棒状況と新島以外の河は無視するものとする。
4巡目、新島はを手出し。
次巡、役牌をポンして打。
北の手出しと安全牌のツモ切りを挟んで打。
さて、この手出しから分かる情報はなんだろうか?
答えはまた後日書くので、考えて欲しい。
南2局
東家 ドラ:
ラス目の入川から、
といった河で14巡目にリーチがかかる。
河の情報は要約したものだ。
入川は
手出し、対面のドラ切りに合わせて手出しの次巡、ツモった自風のを暗槓。
嶺上牌から持ってきた完全安牌の西をツモ切り、次巡。
新島はこのをチーして
の形式聴牌を入れる。
次巡、新島のツモは。
何やら切りたそうにしているが、新島は45000点持ちのトップ目。
のダブルワンチャンスではあるが、これを通しても残りツモ番は2回。
さすがにオリるだろうと思ったが、少考の後、新島はこのを通して見せた。
何故通せたか。考えてみた。
Case①に放銃する場合。
からドラをポン聴にとっていないことになる。
空切りのケースも考えられるが、そもそもドラポンに対応できない形で持っている事は想定しにくい。
への放銃はほとんどないといえるだろう。
Case②への放銃
を引けばドラが使える形で、を切ってまで残したは確実に関連牌。
が愚形のフォローである場合は十分に考えられる。
なるほど。これならを切るかもしれない。
しかし入川はその前巡、を手出ししているのでこの形はあり得ない。
ではたった今、を引いたパターンはどうか?
それも考えにくい。
という強くっつき牌を切ってまで、完全孤立のを置いていたことになる。
やはりマンズの上にはブロックがあると考えるのが普通であろう。
つまりが受けにならない&が愚形のフォローになっているマンズの上のブロックがないと、ラス目がを先に切っているに放銃する形は考えにくい。
あのは使えない形から切っていることがかなり濃厚であり、形的にほとんど当たらないと考えた上で、新島はを切ったのだ。
しかしあくまで新島が通りやすい牌と考えただけであり、どんな理由をつけたところで通っていないことに変わりはない。
「通る理由を探して、通さないと行けないんだ。」
新島は強くこう語る。
次巡、持ってきた新ドラので再び長考に入るも、今度は降りた。
「通っていないから降りたんじゃないんだよ。通る理由がないから降りるんだよ」
そう言って悔しさをにじませ止めたが入り目だということは、後ろで見ていた僕しか知らない。
1着 +38.9
3回戦/4回戦
1着 +40.5
3着 ▲11.9
終わってみれば+114の大勝。
新島は勝つと決まって
「誰が強いか分かったな?」
と偉そうに言う。
「やっぱ俺は天才だったなぁ~」
戦いを終えた彼の目はまるで赤子のようだった。
<了>