2019たこやきリーグ決勝 観戦記
◇たこやきリーグ決勝
2019年、麻雀界のスーパーウルトラエキサイティングビッグタイトル「たこやきリーグ」の決勝が開催された。
全国2兆のたこやきリーグファンが固唾を飲んで見守った対局の様子をお伝えしよう。
◇選手紹介
まずはこの神聖なる決勝に駒を進めた、4名のファイターを紹介する。
エントリーNo.1 松本陵(最高位戦日本プロ麻雀協会)
唯一無二にして絶対の称号、ミスターたこやきこと第一期たこやキング。シード無しの第二期もぶっちぎりの成績で予選を突破。
実家もたこやキングにあやかって、たこ焼き屋を始めたとかはじめてないとか。
第二期も制して、名実ともにたこやきとなることができるのか(?)
エントリーNo.2 稲川佳汰(日本プロ麻雀協会)
この日のために、髪色をたこやき色に寄せてくるなど気合十分。
名実共に、たこやきを目指す。
エントリーNo.3 中村誠志(最高位戦日本プロ麻雀協会)
通称、親泣かせの中村。
「中村の下家に座ったが最後、その親番は決して連荘できない。」ということではない。
麻雀に専念するために、超大手メーカーを退社。その際に親が泣いたことからこの名が付いた。
そのエピソード通り、麻雀にかける思いは人一倍、いや人二倍熱い。
たこやキングの座を勝ち取り、初タイトル獲得となるか?
エントリーNo.4 中出雄介(麻将連合μ)
メガネが白い。
◇1回戦 ミスターたこやきによる洗礼
開局、先制したのはミスターたこやきこと松本。
役もドラもない手牌だが、手変りもないので即リーチ。
数巡後、親泣かせの中村が安全牌に窮し筋を追って9sで放銃。するとその9sが裏ドラにボロン。リーチのみの手が満貫に化けた。
ミスターたこやきが、そのミスターたるゆえんを存分に発揮し点棒を増やす。
ミスターは止まらない。東2局にもピンフドラ1、高目ならイーペーコーの手牌で先制リーチ。
これに飛び込んだのはホープ稲川。ハイテイで高目の1mを掴み8,000点の放銃。
ミスター松本がさらにリードを広げる。
58,200点と大量リードで南4局の親番を迎えたミスター松本。
さらに得点をかっぱぎにタンヤオピンフのリーチ。これは松本のたこやきタイム、TTに入るか…と思われた。
我が目を疑った。ホープ稲川が親リーチにドラの發を叩き切っての追っかけリーチ。
冷静に再度点棒状況を再確認する。稲川が着順を上げるためには跳満ツモ、あるいは中出からの満貫直撃。しかし手牌にはハネマンはおろか、役がピンフしか見当たらない。
やはり何度見てもリーチによるメリットが全くない局面に思える。この局面についてホープ稲川はこう語った。
稲川「トップのミスターたこやきから少しでも多くの点棒を奪いたかった。目標は優勝だからね。」
果たしてこのリーチが期待値的に本当に得かどうかは分からないが「ミスターたこやき松本を意図的に狙う」という意思表示になる。
その狙い通りミスターたこやきから直撃を奪うも裏は乗らず。
稲川がリスクを冒して松本から奪ったポイントはたった1,000点。しかし通常ならリーチなどかけない手牌。
「は?それリーチすんのかよ…。」とミスターたこやき松本の心にトゲを刺した。そう、この1,000点は、稲川がまいた逆襲のタネの1つにすぎなかった。
◇2回戦 逆襲のタネ、開花
1回戦のオーラスに稲川が撒いたタネが徐々に芽を出す。
開局の大切な親番、松本は一人ノーテンで流した。決して粘れない手牌ではなかった。取ろうと思えば取れたテンパイだった。しかし先ほどの稲川のリーチにより、狙われているという意識を強く植え付けられた。松本の心に刺さったトゲがチクチクとダメージを与えていく。
松本に再び回ってきた南場の親番、今度は先制リーチに成功する。
しかし当然他家も松本のリーチにはダマっていない。この直撃チャンスに立ち上がったのはもちろんあの男。
ホープ稲川だ。
ここがチャンスとばかりに七対子のドラ単騎でリーチ。
そしてドラを掴んだ松本から直撃。1回戦のオーラスに撒いたタネが花開いた。
裏ドラは乗らなかったものの、8,000点のアガリで松本を突き落とす。
稲川はこのままトップを守り切りフィニッシュ。1回戦トップの松本を3着に沈め、並びを作ることにも成功。かなり手ごたえのある半荘になったことだろう。
◇3回戦 ミスターたこやき、逆風
ホープ稲川のトップ目で迎えた3回戦目のオーラス。
ミスター松本は中を仕掛けてカン5s待ちのテンパイ。現状2着目の松本はこのまま終われば、最終4回戦を稲川との着順勝負に持ち込むことができる。
何としても6,000点離れている中村から、この着順を守りたいところ。
しかし次巡、ツモ1pと来たところで松本が面白い選択を見せる。
なんと打6sとしてテンパイを外した。
「ホンイツが付けば打点は上がるっしょ。」
ということではない。打点が上がったところで4回戦の条件は着順勝負なので変わらないからだ。
つまり松本としてはカン5sを続行することよりも、一旦テンパイを外して8pポンなどで好形のテンパイを組みなおした方が、アガリ率が高いと判断したということだ。
次巡、ペン3pをチーしてカン2pのテンパイを組みなおすと――
8pを引いて367p待ちの絶好の3面待ちに。テンパイ外しが功を奏し、松本のアガリは時間の問題かと思われた。
しかし立ちはだかったのは親泣かせの中村。
ドラ1の36p待ちでテンパイ。このままではツモでも松本からの直撃でも裏ドラ条件になってしまうが、松本が2つ仕掛けていることもあり、猶予がないと判断。即リーチに踏み込んだ。
36p対決を制したのは中村。大切な裏ドラも乗せて2,000-4,000のアガリ。
この裏ドラに喚起したのは、言うまでもなくトップ目で親番のホープ稲川。優勝戦線の松本の着順が落ちたことにより、有利な状況で最終4回戦を迎えることとなった。
皮肉にも親泣かせの中村が、初めて親を喜ばせることに成功した瞬間でもあった。
最終4回戦の条件を確認しよう。
稲川はトップを取れば問答無用で優勝。それ以外でも、松本に対して1着順+素点13,000点の猶予がある。
当然松本はその逆。稲川に対して2着順以上、あるいは1着順+13,000点の差を付けなければならない。
中村と中出は現実的には非常に厳しい状況。親番でとにかく稼ぐしか、生きる道はない。
◇4回戦 奪取
東3局、松本は親番で高目三色のリーチ。このリーチが実れば一気に稲川をかわし、優勝ポジションに立つことができる。
しかし三度立ちはだかるは稲川。なんとこの形からリーチ宣言牌の6mをチーして、全く通っていない打1m。
稲川「腹くくりましたね。」
局収支ではない。半荘収支でもない。優勝収支ならば、この松本のリーチを好き勝手させるわけにはいかない。ここで引くわけにはいかない。
松本の高目のアガリ牌3pを奪取し、あの形からテンパイにこぎつけると――
5pを力強く叩き付け、あの手牌からアガリ切ってみせた。アガリ牌、そして優勝をも松本から奪取したような感覚だった。
そして勝負が決したのは南2局だった。先制のテンパイを入れたのは優勝に王手をかけている稲川。ホンイツの7sと西のシャンポン待ちでテンパイ。この時点でアガリ牌は7sが山に1枚。引ければ優勝に大きく近づくアガリとなる。
同巡、中村もテンパイ。打6sとしてカン4sのテンパイを維持しながら四暗刻の手変わりを待つ。
次巡、追いかける松本も打2mでテンパイ。ホンイツ・發・チャンタ・イーペーコーのハネマン。7mも山に残り1枚。
さらにさらに親番の中出も、この2mをポンしてタンヤオ・ドラ3のテンパイ。打5mとしてカン4mに受ける。
当たり牌を掴んだのは中村。稲川への7s放銃でこの局は幕を閉じた――
と、思いきや中村は打3sとして放銃を回避。自身の四暗刻だけを見るならばツモ切ってもおかしくない牌だが、巡目が残り少ないことからより安全な3sを切ってテンパイ維持。
この局はまだまだ終わらない。
カン4mで親満テンパイの中出。ツモ4pときてアガリを逃す。前巡にシャンポンに受けていればツモアガリだったが…。しかし裏目は仕方がない。冷静に再び打5mとして3m単騎に受け変える。
そして無情にも松本のツモ牌は3m。こんなテンパイから3mが止まるはずもなく中出へ放銃。12,000の出費は、追いかける側としてはあまりにも痛すぎた。
その後、稲川は対松本だけを考え局を進行。オーラスの親番を丁寧に伏せて優勝。
ミスターたこやきから、たこやきの称号を文字通り奪い取った。
最初から、そして最後まで。稲川は一貫して優勝だけを見つめ、そしてその目的に向けてひたすらに進んでいた。
再び稲川の優勝インタビューを聞く日は、そう遠くないような気がする。